長岡技術科学大学
   
 

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山本哲生, 北島宗雄, 高木英明 & 張勇兵 (2001)

山本哲生, 北島宗雄, 高木英明, 張勇兵. (2001). Markov連鎖を用いたウェッブナビゲーション過程の評価. 情報通信ネットワークの新しい性能評価法に関する総合的研究, 189-198.

 

Markov連鎖を用いたウェッブナビゲーション過程の評価

2000 年1 月現在のウェッブサイトの総数は1000 万にも及んでいると推定されている[1] 。ウェッブサ イトを開設する目的も、エンターテインメント、ショッピング、教育、情報提供、組織紹介、コミュニティな ど、多岐にわたっている。さらにインターネットの急速な発達に伴い、インターネット上で入手可能な情報は 日々増加しており、もはやそのすべてをフォローすることも困難な状況にまで達している。ことに最近の通信 インフラ整備の拡充により、インターネットアクセス環境も飛躍的に向上しており、今後の情報の入手の方法 は、以前の雑誌・本・CD から、インターネットに次第にその中心を移していくと思われ、益々、インターネッ ト上の情報を絞りこむ技術が必要となってくると考えられる。現在、我々がインターネット上の情報を検索す る際の手助けとなるものとして、Yahoo 、Goo 、Infoseek などのサーチエンジンが知られている。しかしなが ら、実際は、そのウェッブサイトに探している情報があるとわかっていながら、その情報を探し当てることが できないことがしばしばあり、ウェッブの利用が必ずしも効率的に行われていないというのが現状である。実 際、Spool ら[2] はいくつかのウェッブサイトを対象として、被験者にそれぞれのサイトで提供されている情報 を探索させたが、その成功率は12 %から43 %と非常に低かった。

どのようにしたらより使いやすいウェッブサイトをデザインできるかということに関していくつかのガイド ラインが提案されている。しかしながら、他のガイドラインがそうであるように、ウェッブサイトやウェッブ ページのデザインのためのガイドラインもその全体が必ずしも首尾一貫しているわけではない。例えば、ハイ パーリンクの内容をわかりやすくするためには、どこにリンクしているのかがわかるように、リンクのラベル はあまり単純で簡潔すぎてはならない。しかし、その一方で、ユーザがウェッブページを開いたときにはペー ジの内容を「読む」のではなく、「走査」することが知られている。走査を効率的に行うにはラベルは簡潔なほ うがいい。

情報(コンテンツ)を提供するためのインフラ(インターネット)が整備される中で、そのインターフェー ス(ウェッブサイト)のデザインは、情報環境の有益さを高める上で非常に重要な役割を果たす。しかしなが ら、現在のウェッブサイトのインターフェースデザインがその役割を十分に果たしているとはいえない。

マルチメディアを「データの提供」に陥らせずに「情報提供」にしていくために、次に述べる情報デザイン の概念から迫ってみたい。生データは時として情報になり得るが、必ずしも情報ではないため、情報とデータ は混同してはいけない。受け手に意味があって初めて情報と呼べるものであることを理解しておく必要がある。 生データを伝える能力と意味のあるメッセージを生成する能力を混同してはいけない。データと知識の間にあ る情報不安症に受け手を引き込んでしまうからである。大量の情報を目前にして、知りたいことにたどり着け ずに苛立っている状態が、まさに情報不安である。我々は知りたいことが何かを特定でき、その内容が満たさ れたとき「理解」が起こる。極めて個人的なレベルにおいてしか、データが情報として活かされることはない のである。自分の好奇心に従って、興味あるものをつなぎ合わせ、興味対象の発見する順に従ってばらばらの データを組み替えるていく作業を通じて知識を得ていくのである。つまり、情報とは「解釈」ということがで きる。データが情報に変わるまでの過程を、ここでは仮に「アクセス」と呼ぶことにする。問題の多くには、 何を解決したいかはひとつしかないが、どう解決するかという解決方法は沢山ある。そのひとつしかない問題 を発見し、どう解決していくか、その過程(つまりアクセス)を選択して、わかりやすく表現することが情報 デザインである。理解していなかったことを理解するところにコミュニケーションは生まれるわけであるから、 情報デザインは、何も知らないユーザを常に想定して、ユーザの理解を促すようなアクセスを選択していくこ とが必要である。この問題に対するひとつのアプローチのし方は、ウェッブを利用しようとするユーザが、ど のようにして個々のページと接するのかを認知のレベルで理解し、そこでの知見をウェッブサイトのデザイン に反映させるというものである。

本論文では、ユーザがウェッブサイト上でタスクを遂行する過程の認知モデルであるCoLiDeS モデル(2.1. 参照)を考慮に入れ、ウェッブページに表示されるリンクを順次選択しながら、与えられたターゲット情報が 提供されているページにたどり着くというゴールを達成する過程をMarkov 連鎖を用いてモデル化・評価する。

 

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